は、限りなく翼をひろげる。
演劇のエルサレム! 私は巡礼のやうに敬虔な眼をあげて、夕暮の星を仰いだ。
私は幸にして、まだ少女歌劇といふものを見たことがないのである。そして、ここでもまた見ないつもりである。
中劇場国民座の舞台で、私の『百三十二番地の貸家』が演ぜられてゐる。
見物は空気にひとしい。
舞台では、たしかに、三つ四つの火が燃えてゐる。私は慰められた。
小劇場はヴエエトオヴエン祭の管絃楽。
聴衆はさすがに耳を忘れて来てゐない。
この一堂は、恐らく、神戸――大阪を底辺とする三角形の頂点だ。
翌日、大阪朝日の講堂で、フランス現代劇の新傾向を論じたのは私だ。馬鹿なことをしたものだ。
帽子をかぶつてゐる諸君よ、向うを向いてゐ給へ。
「退屈」は音を出すものだ。私は、その音を大阪と神戸で聞いた。
京都のタクシイ、千鳥足。
都ホテルのバルコニイで、何々婦人会がそつ[#「そつ」に傍点]歯を並べ、何条通りかのカフエエで、高等学校の生徒がプロレタリア文学を論じてゐた。
そして、私は、そのホテルで昼食をすませ、そのカフエエで、主賓らしく納まつてゐたのである。Y氏の如才な
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