果してどの評判に信頼し、どの反響を正しいものとすべきでせうか。或場合には全く正反対のこともあります。殊に甚だしいのは、いゝとか悪いとかいふ批評が作品のほんの一部分、ほんの一面に向けられた言葉に過ぎず、それが無責任に次から次へと伝はつて行くことです。聞く処によると、読者の声を代表するかの如き新聞社への日々の投書は、決して読者の声を代表するものではなくて、その中の極く偏した一部、極端に言へば物好きな弥次馬の声なんださうです。さういふ事を一々気にしてゐる作者もありますまいが、万一さういふ片々たる投書批評を標準にして新聞小説の傾向なり調子なりが決定されて行くとしたら、非常に嘆かはしい事です。
僕は新聞の小説を引き受ける場合、一番気になるのは新聞社の方で初めから新聞小説の一つの型をきめてきてはゐないかといふことです。僕にはまだ自分の力でその型を破りながらしかも大多数の読者に満足を与へるやうな作品の見当がついてゐません。
底本:「岸田國士全集21」岩波書店
1990(平成2)年7月9日発行
底本の親本:「文学時代 第三巻第十号」
1931(昭和6)年10月1日発行
初出:「文学
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