相信じ、相携へて、共通の道を歩かなければならないのである。教育家と芸術家とも同様であり、服飾の研究家と営養学者と建築技師とは、これまたそれぞれの見地からのみ国民生活を眺めてゐることは許されない。
国語問題の解決は国語学者の手に委ねておいてはならず、対外宣伝には、あらゆる部門のエキスパートを動員して、国民の最高の智嚢を絞るべきである。
この種の工作を、今後、文化部はまづしたいと思つてゐる。
かやうにして出来あがつた文化機構の再編成は、やがて、国民生活を豊富にし、明朗にし、健康にする最も近道だと考へるのであるが、こゝで特に学生問題に触れゝば、学生こそは、云ふまでもなく、明日の日本の希望である。
私は常々考へるのであるが、現在五十歳以上の人間は、もう、これからの文化を語る資格はまづ疑はしい。全然駄目だといふわけではないが、大体現状維持派であり、口では革新を唱へても身みづからその範を垂れる人は寧ろ例外に属すると思はれる。
三十代四十代の人間は、少しは見込みがある。しかし、もう既に、齢人生の半ばを過ぎれば、習慣といふものがどうしても身についてしまふ。いくら習慣を払ひのけたつもりでも、どうかすると、ひよつこりそれが顔を出して、全く新しい性格を作りあげるといふことは至難の業である。たゞ、いゝところは、さういふ努力を試み得ることゝ、それによつていくらかでも次の時代を支配し得るといふことである。
さて、二十代十代といふのは、これはまだ自分さへしつかりしてゐれば、どうにでもなる年である。
新体制といふ看板をかゝげながら、われわれの世代では完成し得ないに違ひない国民的新文化の基礎を、大いなる夢と若い力とをもつ諸君の手にわれわれは托するのである。(昭和十五年十一月)
底本:「岸田國士全集25」岩波書店
1991(平成3)年8月8日発行
底本の親本:「生活と文化」青山出版社
1941(昭和16)年12月20日
入力:tatsuki
校正:門田裕志
2008年6月10日作成
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