まずして面白い戯曲」を書き、舞台では、築地座の連中が、「白」を正確に云ふことだけで、「白から面白い芝居」を作り上げる実験を試みた。
 この傾向は、たしかに、今年の目立つた一現象で、華々しい掛声こそ伴はないが、明日素晴らしい実を結ぶであらうと思はれる。
 去年から今年にかけて、久保田万太郎氏の作品が度々舞台化され、世界はやや限られてゐるが、兎も角現代劇の一見本を提供し、新人では、川口一郎、小山祐士、三宅悠紀子、田中千禾夫、伊賀山精三等の諸君が、それぞれ特色ある作品を示した。阪中正夫君も、真面目な仕事を続けてゐる。この機運を押し進めて行けば、恐らく、新劇の面貌は、ここ数年の間に一変するであらう。それはつまり、作者も俳優も、その「職業」について自覚する時が来たのである。新劇が「自活」の第一歩を踏み出さうとしてゐるのだ。それは、かの既成劇壇と商業主義の握手に見るやうな妥協でなくして、芸術作品が社会的存在となるための必要条件である。(一九三三・一二)



底本:「岸田國士全集22」岩波書店
   1990(平成2)年10月8日発行
底本の親本:「現代演劇論」白水社
   1936(昭和11)年
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