生命をとくに失つてゐるとすればこれに代るべき新興演劇のためにもう少しは、所謂、信頼すべき「専門家」が出てゐてもいゝ筈であるのに、どうしてかういふ結果になつたかと云へば、私の意見では、日本に演劇のアカデミイがないためであると思ふ。
 この意見は既に再三述べたこともあるが、もはや口でばかり云つてゐても仕方がない時機であるから、私は、先づ手はじめに文部省令による専門学校の形で、明治大学専門部文科の一部門に新に演劇映画科なる一科を創設する案を立て、やうやく学校当局の賛成を得たのである。この施設は、日本に於ける唯一の新演劇綜合研究機関たるべきもので、私の信頼する講師諸氏の協力を得ることによつて、明日の新劇のために少なからぬ貢献ができることゝ期待してゐる。
 現代日本の一つの不幸は、各文化部門の孤立といふ現象であると同時に、同一部門に於ても、小党分立、個人個人の睨み合ひが目立ちすぎるといふことである。意識的にさうしてゐるといふよりも、寧ろ、共同の目標に向つて互に足らざるを補ふ精神が芽を吹いてゐないのである。
 非常時の合言葉を利用するわけではないが、日本人は先づ日本人同士で結びつくことが、芸術の分
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