年に圧縮して、次々と目新しいもの、劃時代的なものを見せて行つたのですから、これは演《や》る方も張合があり、観る方も飽きる筈はない。新劇は正に天下泰平でありました。
ところが、「さうは問屋で卸さない」の言葉通り、かの構成派あたりを最後として、欧洲の劇壇は、新柄の発売を停止しました。こちらでは、一と通り見本を並べ終つて、これから、お客さんは、地質、値段の点検にかからうとしてゐる。新劇の方では、生憎、お客さんが、柄いきだけで、品物に飛びついて来ると思ひ、正札は、人絹を本絹並みにつけてあるのです。
かういふと、悪辣なやうですが、これまでの新劇の側からいへば、自分自身、その値段なら買ふつもりでゐたのでせう。
お客さんは、いよいよ、反物を取上げた。
「おや、変だわ、これ、間違つてやしないでせうね」
と、口へはまだ出さぬが、ちらりと売子の顔を見上げた。さあ、これからの応酬が見ものです。
しかし、観客諸君、安心して下さい。築地座は、私の見るところ、今、急いで正札をつけ替へてゐます。のみならず、柄いき以上に、地質の吟味にとりかかつてゐます。
国産品への着眼は、単に時代への迎合ばかりとはいへま
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