文してくれ。
男優B 最近、ほかの女から来た手紙でも持つてるか。
男優A 生憎《あいにく》持つてる。持つてるが、そんなものが証拠になるかね。同時に幾人もの女を持つてるといふ例もあるしね。
男優B 女房の名前を云つてみろ。
男優A 僕のかね?
男優B いゝや、おれのさ。
男優A そいつを訊《き》いとくのを忘れた。僕は、あんまり、女の名前なんかに興味はないんでね。貞子さん……それとも、操さん……違ふね。郁子さん、すま子さん、芳江さん、ゑみ子さん、加代子さん、とし子さん、れい子さん。……どうだね、まだかね、弥生さん、君子さん、常子さん……。
男優B それだ。
男優A これか、常子さん……。
男優B わざと知らん振りなんかするな。
男優A 常子さんか、覚えとかう。
男優B おい、飯沼、頼むからほんとのことを云つてくれ。
男優A おれの云ふことがほんたうかどうか、誰がそれを判断するんだい。
男優B おれが判断する。
男優A その頭で判断はむつかしからう。まあ、今夜ゆつくり考へてからにしろ。おれは逃げも隠れもしない。おれの今ゐる家は君の細君が知つてるよ。
男優B 何が
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