は縦中横]  風采なんか、まあ、どうだつていゝわね。
女優C′[#「C′」は縦中横]  (考へる)
女優B′[#「B′」は縦中横]  一人、心当りがあるの。
女優C′[#「C′」は縦中横]  (B′[#「B′」は縦中横]の顔を見る)
女優B′[#「B′」は縦中横]  それが画かきさんなのよ。
女優C′[#「C′」は縦中横]  (眼をみはる)
女優B′[#「B′」は縦中横]  (C′[#「C′」は縦中横]の耳もとに口を寄せ)そら、そこで絵を描いてる人……。黙つてらつしやい。上手だか下手《へた》だか知らないけど、あの一所懸命な恰好をごらんなさい。真剣味があるぢやないの。男はあれでなくつちや駄目よ。
女優C′[#「C′」は縦中横]  ぢや、話を進めてみて頂戴よ。
女優B′[#「B′」は縦中横]  (つかつかと男優Cのそばに進み寄り)あの、失礼でございますけれど、ちよつとお伺ひいたします。実は……。
男優C  なんですか。
女優B′[#「B′」は縦中横]  あの、先生はお弟子さんをおとりになりませんのでせうか。
男優C  僕はまだ修業中ですから、弟子なんか……。
女優B′[#「B′」は縦中横]  いゝえ、どういたしまして……それだけ立派なものがおできになれば、帝展でも院展でもわけなくお通りになりますわ。わたくし、一人妹がをりますんですけれど、子供の時分から絵が好きで……あんなに恥かしがつてますわ。それやもう、わたくしの口から申すのも変ですけれど、ちやんとした先生にお仕込み願つたら、きつと物になるだらうと思ひまして……はあ。つきましては、これと云つて、先生方にお近づきもございませんし、今日、幸ひかうしてお仕事を拝見させていたゞきましたのも、何かのお引合せかと存じますので、はあ、是非、ひとつ、わたくしどものお願ひを、お聴き入れ下さいませ。妹は、あゝ見えて、まだ十九なんでございます。先生もまだお若くつていらつしやいますわね。
男優C  僕、二十六です。
女優B′[#「B′」は縦中横]  あら、丁度よろしうございますわ。(女優C′[#「C′」は縦中横]に向ひ)ちよつと、静ちやん、こゝへいらつしやい。先生にお引合せしとくから……(女優C′[#「C′」は縦中横]と男優Cとが、今更らしく会釈を交す)いゝわね、静ちやん……なんでも先生のおつしやる通りにするんですよ。
女優C′[#「C′」は縦中横]  えゝ。
女優B′[#「B′」は縦中横]  先生はまだお一人でいらつしやるんだらうから、身の廻りのお世話なんか、よく気を配《くば》つてね。
女優C′[#「C′」は縦中横]  えゝ。
女優B′[#「B′」は縦中横]  (男優Cのシャツを指し)このおシャツなんかも、明日お天気だつたら洗濯をして差上げなさい。
女優C′[#「C′」は縦中横]  えゝ、わかつてるわよ。
女優B′[#「B′」は縦中横]  では、まあ、どうかよろしく……。お話が後先《あとさき》になりましたが、先生、お住居《すまひ》はどちらでいらつしやいます?
男優C  別にきまつてをらんです。
女優B′[#「B′」は縦中横]  と申しますと……。
男優C  友達のところをぐるぐる泊つて歩いとるんです。
女優B′[#「B′」は縦中横]  それはそれは……。ねえ、静ちやん、そこはなんとか後で御相談なさいよ。では、あたくし、ちよつと買物がございますんで……。何《いづ》れまた更めて御挨拶に……。
男優C  さうですか。

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女優B′[#「B′」は縦中横]退場。
女優C′[#「C′」は縦中横]、男優Cの方をそつと見て、笑ひかける。
男優C、突然、呻き声を立てて、その場に倒れる。
[#ここで字下げ終わり]

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女優C′[#「C′」は縦中横]  (駈け寄り)あらあら、どうしたつていふんだらう。病気なのか知ら……。ねえ、どこか悪《わる》いんですか。おや、もう死んでるわ。
男優C  死んでやしない。
女優C′[#「C′」は縦中横]  生きてるわ。
男優C  苦しいんだ。
女優C′[#「C′」は縦中横]  ぢや、待つてらつしやい。今お医者を呼んで来てあげるから……。
男優C  お医者ぢやなほらない。
女優C′[#「C′」は縦中横]  あたしならなほせる?
男優C  君の姉さんでなけや駄目だ。
女優C′[#「C′」は縦中横]  あゝら、呆《あき》れた人ね、あんたは……。(男優Cの腰を蹴つ飛ばして退場しようとする)

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男優D、洋刀を提げて登場。
[#ここで字下げ終わり]

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男優D  その女、待てツ!
男優C  (絶え入るやうな呻き声。やがて、ぐつたりとなつてしまふ)
男優D  (女優C′[#
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