なとこをうろうろしないでくれ給へ。邪魔になるから……。
女優C′[#「C′」は縦中横] だつて、こゝは誰が歩いたつていゝとこでせう。
男優C 歩くところはほかにいくらだつてあるだらう。僕がなにをしてるかわからないのか。
女優C′[#「C′」は縦中横] ふん、それで絵を描いてるつもりなんでせう。よく恥しくないわね。
男優C (黙つてゐる)
女優C′[#「C′」は縦中横] (ベンチに腰をおろし)あゝあ、どうしてかう、誰もかれも焦《い》ら焦《い》らしてるんだらう。人に食つてかゝりさへすれや、運が向いて来るとでも思つてるのかしら……。
男優C (カンヴァスを遠くから眼を細めて眺める恰好をし)人物にはだんだん興味がなくなつて来た。
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長い沈黙。
男優A、咳払ひをする。女優B′[#「B′」は縦中横]登場。
[#ここで字下げ終わり]
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女優B′[#「B′」は縦中横] (女優C′[#「C′」は縦中横]に向ひ)飯沼さんつて方《かた》にはもうお会ひしたの? なんておつしやつたい? まさかあんたの註文通りには行かなかつたらう。
女優C′[#「C′」は縦中横] (しばらく考へて、急に、しくしく泣き出す)
女優B′[#「B′」は縦中横] 泣いてちやわからないわ。兎に角、あんたの気持を伝へたことは伝へたんでせう。うまく云へて? ねえ、静ちやん、姉さん、気が気ぢやないのよ。
女優C′[#「C′」は縦中横] あたし……あたし……もう駄目だわ……諦めるわ……。
女優B′[#「B′」は縦中横] 感じないのね? それとも、なんか理由があつて、世話は出来ないつていふの。どつちなのよ。
女優C′[#「C′」は縦中横] それがね、あたしの顔を見ると、いきなり、かう云ふのよ――「君は誰だい。会つたこともない僕に何の用があるんだい」つて……。誰か都合の悪《わる》い人がそばにゐたからなのよ。
女優B′[#「B′」は縦中横] 面倒臭い男ね。そんならどう、静ちやん、あんた、いつそ結婚しちまはない?
女優C′[#「C′」は縦中横] あの人と?
女優B′[#「B′」は縦中横] 誰とでも……。姉さんに委《まか》しなさいよ。あんた、男らしい男が好きなんでせう。
女優C′[#「C′」は縦中横] (うなづく)
女優B′[#「B′」
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