前といふきまつた女を手に入れたわけだ。
とね 手に入れたはひどいでせう。
州太 手に入れたはひどいか。そんなら取消さう。
とね 取消さなくつてもいゝわよ。
州太 ぢや、どうしよう。
[#ここから5字下げ]
州太は晴れやかに笑ひながら、テラスに姿を現す。山鳩がしきりに鳴く。
[#ここで字下げ終わり]
[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
とね (突然、前の方を指さし)あれ、さうでせう。
州太 ほう。自転車の護衛がついてるぜ。
とね お姫様のお成りですもの。
州太 荷馬車の上でパラソルは洒落てるね。(間)
とね 献さんが大真面目で馬をぶつてるわ。(間)
州太 笑つてやがる。
とね なんとか合図をしておあげなさいよ。(間)
州太 (聞えないふりをして)なんだ、あの黒い四角な箱は……。(間)
とね 丈が随分高いわね。ちよつと、断髪か知ら……。
[#ここから5字下げ]
遠くで、「たゞいまあ」といふ快活な女の声。州太は、機械的に走り出ようとするが、思ひ直して、そこに踏み止る。立つても坐つてもゐられないやうな気持を、強ひて抑へてゐる様子がありありと見える。
[
前へ
次へ
全75ページ中17ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
岸田 国士 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング