とか、国際情勢の変化とか、政界の空気をはじめとする政治の動向とかいふもの、更に、家庭を中心とした四囲の人事的な動き、市井の物情などから受ける衝撃や感動や不安といふやうなものに比べて、現在では、殆ど同じくらゐになつてゐるやうに思はれます。むしろ、私の観るところでは、「物資の欠乏」といふことが、現在の国民生活を、もつと別の形で左右すべきだと考へるのです。それは、幸ひにして、「物資の欠乏」の程度が、他の交戦国からみれば、まだまだ余裕がある方なのですから、それを今のうちに、「何時までも持ちこたへられる」かたちにする計画と、その実践がなによりも必要なのであります。それに払ふ努力をいくぶん等閑に附して、たゞ物資不足を歎いたり、それに不安を感じたり、そのために気持が荒んだりするといふことは、まつたく日本人らしからぬことであります。
 しかしながら、戦時生活のあらゆる条件は、人心に必然的な動揺を与へ、生活の色調も亦、これに応じて、いくぶんの変化を示します。この変化が、「生活の悪化」となり、単に物質的な面ばかりでなく、精神的にも、「生活力の涸渇」となるやうに、敵はあらゆる術策をめぐらしつゝあるのです。

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