と最も関係がありさうに思はれますけれども、「野性」は飽くまでも「本能的」なものであり、教育や訓練によるものではありません。それだけまた時に応じては本質としての力を発揮しますが、逆にこれを新たに自分のものにするといふことは殆ど不可能であります。
「野性」に帰れとか、「野性」を養へとか云つてもそれは無理な話で、実際は、不必要、かつ有害な都会的装飾、乃至、繊弱な文化意識を払拭せよといふ意味になるのです。
 最近は、都会といふものが、事毎に槍玉にあげられ、都会そのものが国家のため無用の長物であるかの如き印象を受けます。それに比例して、農村の讃美はその生産性と結んで、今や絶頂に達した観があります。むろんその理由は十分認められますが、これが「文化」といふ問題になると、仮りに「戦争」を主眼とする立場から云つても、そこに極めて複雑な問題が潜んでゐて、さう簡単に、都会と農村の優劣を決定するわけにはいきません。また、さういふことをしてもなんにもなりません。
 この「野性」の問題にしても、なるほど、英国兵は例の「ジャングル」を人間の通れない障碍物ときめてゐたといふやうなことで、日本兵の「野性」が云々されると
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