さが政治と生活から文化そのものを游離させてゐるといふ事実がないでありませうか。かういふ事実は、別段私がここで九州の文化について特に非難がましいことを申上げるために列挙したのではありません。日本の文化機構或は文化現象を通じて見る、一つの弊をここで算へたのであります。若しかういふ点があつたならば、それだけでも今日九州における文化運動の大きな第一着の仕事があるのであります。
 これは九州ではありませんが或る地方で或る一人の名医と称せられる人がある、このお医者さんは土地の信望もあり、またその技術においても非常に優れた人であります。従つてその病院には多くの患者が殺到するといふ有様であります。このお医者さんは医師界の新体制といふことについて話をする際に「自分の処に来る患者を、良心的に医者としてできるかぎりの努力を払つて治療してやることが医者の道である。それ以上なにをする必要がある。医界の新体制とか旧体制とかいふことは、医者だけしてゐないから問題になるのである。自分はさういふ意味において旧体制も新体制も超えて永遠の体制によつてやつてゐるのだ」といふことを云はれてをりました。私はその信念について非常に
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