を、私自身の経験によつてそれを見、感じてゐるのであります。またこれは吾々日本人悉くが九州といふ土地に対して、信頼と敬意とを払ふ所以であると思ひます。
 吾々が日本に新しい文化を建設するこの時代に、さういふ理想をもつてここに立ち上つたときに、平和に狎れ安逸に溺れた奇矯脆弱な文化的の払拭といふことを、まづ考へなければならないのであります。
 一方乱を好み戦ひを事とする蛮勇もまた、決してわが日本の国ぶりと相容れるものではございません。文武両道は我が祖先の嗜みを承け継ぎ、花も実もある精神と、行動とを、吾々の全人格によつて、全生命によつて示すことが今日只今より必要なので、私が九州の雄々しい土地柄に期待するのは、全くこのためであります。
 九州の伝統的文化は、日本歴史の貴重な頁を占めるものでありますが、現在においてその精神がどこまで活かされ、その精神の上にいかなる風俗が作られてゐるかを、皆様自らお考へ願ひたいのであります。日本全土を掩ふ或る意味における不健全性――これは九州といふ土地になんの係りがない現象でありませうか、正しいことを行ふものが、越え難い障碍を感じてゐるやうなことはないでありませうか
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