力、更に、少し妙な言葉でありますが、「独往的な実践」といふものが文化団体の一つの性格として、どうしても必要だと思ふのであります。この場合に当然各行政官庁、翼賛会、また他の組織との間の関係を充分考慮に入れながら、その決意をもつて進まなければならないと思ふのであります。無用の対立或は摩擦或は力の重複といふやうなことを避けるやうに、充分御考慮願ひたいのであります。
 また翼賛会と致しましてもさういふ風にすべて各団体の調整を図ることに、将来努力するつもりであります。さういふ対立とか摩擦とかいふやうなことがありましては、如何なるいい目的をもつた仕事でもその効果があがらないものでありますから、その点は充分御注意願ひたいと思ひます。
 私は前から考へてゐるのでありますが、今日日本に必要なことは今まで非常に大事だ大事だと思はれてゐた事柄で実は少しも手がつけられてゐないといふことが非常に多いのであります。これは文化の面においても同様でありまして、誰かがまづそれを始めなければならんと思ひます。しかしその始めたものが自分一人で、或はまた自分達だけでそれができると思ふことは、非常な間違だと思ふのであります。
 まづ「始めた」といふことに聊かの満足がありとすれば、それを完成するのは自分達だけの力ではない、非常に多くの協力者を必要とするといふ、謙虚な気持によつて、文化運動を進めることが必要だと思ひます。これからの文化運動の性格は、実に多くの分野との協力によつて、綜合的に進めるといふことによつて、はじめて完成せられるものと考へるのであります。
 以上「具体的に」と思ひながらかなり抽象的な話になつてしまひました。しかしこの目標についてはほぼ今日お集りの皆様方には、無論具体的な形でお把み願つたことと存じます。私として申上げることはこれだけであります。



底本:「岸田國士全集25」岩波書店
   1991(平成3)年8月8日発行
底本の親本:「知性 第五巻第三号」
   1942(昭和17)年3月1日
初出:「第一回九州地方文化協議会会議録」大政翼賛会組織局文化部
   1942(昭和17)年1月
入力:tatsuki
校正:門田裕志
2010年3月1日作成
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