。無邪気に戯れながら、三々五々、野道を後になり先になりして、家路へ急ぐのでありますが、家には誰が待つてゐるかと、私はふと思つた。農村の母親は、多分、今時は野良の仕事を一手に引受けてゐて、子供のためにおやつを用意して待つてゐるやうなことはありますまい。それほど忙しく、それほど、子供のことはかまつてゐられないのです。
 しかし、私は、その時、子供たちの服装をみて、どれもこれも、ひどいものだといふことに、聊かあきれたのです。どうひどいかといふと、それは、粗末だとか、汚れてゐるとか、そんなことではない。一種名状すべからざる「だらしのなさ」であります。それは、単なる醜さではない。なにか悲しげなものがある。私は心が真つ暗になりました。
 私は考へたのですが、それはまさしく、母親といふものの愛情が、子供の服装の上に、どういふ形ででも現れてゐないといふ無残な光景ではありますまいか。つまり、子供に着物を着せるといふ、その母親らしい心持が、それらの子供たちをみてゐて、ちつとも私には感じられないといふ事実です。
 農村生活の現状が若しかういふものなら、それは由々しいことだと、私はその土地の人にも語つた次第で
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