ところで、さうとばかりは云へません。元来人並以上のものをもつてゐるにはゐるが、それを、たゞもつてゐるだけでは満足しないで、機会ある毎に人に認めさせようとするものがある。これが自尊心、自負心となつて現れます。最もひどいのが「己惚れ」であります。
 かういふ人物は、自分を実力以下にみられるといふことが、堪へられない苦痛なので、普通、「負け嫌ひ」と云ふのがこれです。それが露骨に言動のうへに現れると、いさゝか滑稽味を帯びて来ます。それが「負け惜しみ」です。蔭で人が嗤つてゐるのも気がつかぬ有様であります。
 自尊心は、以上のやうな場合を除いて、ほんたうに自分の名誉を保ち、面目を傷つけられないために、敢然と己を主張するやうな時、それは立派な行為となつて示されます。
 これは、おなじ自尊心でも、矜り、または矜持と称して差支へないものです。
 矜りとは、飽くまでも、自分の実力と真価について正しい認識をもち、しかも、ある大事な一点で何人にも負《ひ》けを取らぬ自信と、その自信が自分に与へられた光栄とを深く心に秘め、如何なることがあらうとも物に動じない覚悟ができてゐることであります。
 木村重成が一茶
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