型なるものを閑却してゐました。それがために、「類型」がはびこつた。「類型」とは一見それとわかる月並な型をいふのであります。役人の型とか教師の型とか、或は商人の型とかいふのがそれです。職業が知らず識らず風貌と言動の上に与へる習性、または固癖のやうなものであつて、それは常に一種の臭味を伴ひ、多くは反感と侮蔑の種を蒔きます。
「類型」は好まずしてそれに陥るものでありますが、「典型」は見事な訓練によつて創造するものです。
 昔は今に比べて、各階級ともに、典型を重んずる風があり、武士はもとより、町人ですら、一つの典型をもつてゐました。典型はまづ家庭教育の指標であり、社会に於ける人物批判の尺度でありました。かの「躾け」は、典型に準拠した子女錬成の手段に外ならず、「嗜み」とは、これまた、それぞれの立場で、典型に合致しようとする努力の結果と見るべきであります。
 典型が生れるところには、必ず「矜《ほこ》り」がなければなりません。ある種の社会的階級が、嘗ては矜りを無視した時代もありました。さういふ階級や、その階級に属する職業に典型がなかつたのは当然であります。しかし、今日は、何れの階級、何れの職業にも、
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