これを一つの文化水準の向上と考へ、かうした脆弱な文化意識が瀰漫しました。本来生活環境に順応し、しかも自らの裡に一つの快適な心を養つて行くことに日本人は特色をもち、またそこに日本文化が光つてゐた。如何なる環境に処しても、胸中一味の涼風を感ずるこの心境は日本人の独擅場でありました。しかしこの傾向は一方に於て、社会をより住みよくする、より合理的にする努力を非常に遅れさせ、寧ろ無関心にさせました。この生活環境に安んずる特性を持ちつゝ、更に一歩を進めて、もつと日本を住みよい国にする、個人の力では立て得ないが、国民全体がその気になれば出来るといふ新しい希望を私は創り出すべきだと思ひます。かくてこそ日本の新文化が世界文化を支配しうると考へるのであります。
 今や日本の運命は一躍発展の段階に入り、目指すものは儼として明かであります。東亜の諸民族を指導して世界の平和を樹立するためにわれわれは戦ひつゝあることが非常に明瞭りしてきました。文化も亦戦ひを前提として戦ひを内容として創造されなければなりません。生活力の強化は明日への民族的発展上不可欠の要件であり、精神と技術をこれに集中することが、今日文化職能人に
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