思ひます。教育の立場から多少考へられてゐたとは云へ、曾ての日本人が重んじた程今日の日本人は品位について思ひを致してゐるとは、信じられません。その結果、日本人の大陸発展に際して由々しい問題を惹起してゐることは誰も知つてゐることであります。更に東亜の指導民族を以て任ずるものが、他の民族に対して今日あるやうな生活の品位に止まるならば、憂ふべき状態であります。私はこの品位はわれわれが生活の中で一つの力として養ふ工夫をしなければならぬ、飾りものでない力そのものだと考へてをります。
以上重点をあげた文化運動は、所謂文化職能人の独占すべきものではなく、寧ろそれらの人の自己反省から出発しなければならぬと思ひます。奇矯な或は脆弱な文化意識が少しでも残つてゐる間は、文化運動の先頭に立つことが出来ないのではないか。生活の理想を個人的幸福に置き、或は社会の改造を単に経済的物質的水準の向上に置いた今日までの文化意識は、全く払拭しなければならぬ。それらを環境づけることを文化能力だと思つてゐた誤りを再び繰り返してはなりません。
日本人は元来自然の環境を快適にすることに非常に無関心であつたが、西洋文化の輸入以後、
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