地方としての理想に還元し、郷土を中心とする一つの将来への希望に移して行かねばなりません。即ち郷土の理想化といふことが新日本を築く一つの基礎になることを明瞭りさせなければなりません。
文化は元来特定の指導者によつて建設されるものでなく、国民の自主的創造力が特に重要であります。従つて地方文化運動もその地方における特殊の性格が一つの力となり、新しい方向に結び付いて行く、これが文化運動の一項目だと思ひます。新しい郷土の理想化は、一面において夢であり、同時に現実に繋がるものであります。この夢は如何に美しく大きく描かれても描きすぎることはありません。そして現実と夢を結び付ける力は、私は文化部門の職域となる人々にあると思ひます。即ち最も精神的な問題に対し深い関心と見識を持たれる人々によつて地方生活の問題が十分に検討され、建設的意見が出て来ねばならぬと思ひます。
地方文化運動の具体的目標は、私は所謂「生活力の強化」の一点に帰著すると思ひます。生活力の強化が生活文化水準の向上に一致するといふ確信をもつて進むべきであります。文化水準の向上はともすると経済的にばかり考へられてゐたのでありますが、これは文化を誤つて考へたもので、かゝる考への誤りを具体的に示すことも文化運動として非常に大事なことゝ思ひます。
生活力の強化と生活に於ける文化水準の向上が全く一致することを、理論的にも実践的にも示し得るのは、所謂道徳・科学・芸術の面であります。例へば物資の欠乏が国民の生活力を弱体化せず、寧ろ如何に強化するに役立つかを示し得るのは、経済或は政治方面の専門家指導者ではありません。同時に、生活の簡易化といふことも、経済的立場から無駄を省くといふ宣伝では、国民の希望に副ひ難く、生活の簡易化即ち生活の芸術化であることが明瞭り現象として示されねばならぬと思ひます。
生活力の強化を更に考へてみれば、第一に勤労を含めた生活能率の増進、第二に肉体的精神的健康性の向上、第三に生活を通じて国民の品位を高めることが重点として考へられます。
今日の時局は生産の面のみでなく、消費の面に於ても能率の増進を要求してゐます。更に人口増殖、士気昂揚等、戦争に欠くべからざる条件を充たす為に肉体及び精神の健康性が十分発揮されなければなりません。又、国民の品位といふことが誤られ、今日まで精神的に考へられ得なかつたのではないかと
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