国民が挙つて新しい方向に向ふ秋に当つて、先づ我々の生活法をもつ、といふことが大切である。
 では、この生活法に関してどんな点に私が気づいたかといへば、例へば住居に就て考へてみよう。簡単なことではあるが煖房設備のない、或は不足した部屋に於ける日本人の生活は、能率を非常に下げる。また健康にも影響する。のみならず屋内に於ける団欒といふことの防碍にもなる。
 防寒設備のないことが不健康に導くといふことはほんの一例に過ぎないが、次に衣服に就てみるならば、日本人は季節によつて着物を換へる習慣はあるけれども、朝昼晩の気温の変化によつて着物を調節することはしない。それは一面に於て気候が温暖の故でもあるが、現在では屋外に出て仕事をする人が非常に多いのだから、一日中の気温の変化に対して相当の調節を行はなければ、そのために感冒にかゝる心配もある。これは冬ばかりではなく、また気候の変り目ばかりでもない。日本人のかういふ習慣のために例へば寒い北満の土地に移住するといふやうな場合にも健康を害することが少からずあると思ふ。
 また例へば、一日中に家族の全員が同時に閑になるやうな時間を作ることが必要であらう。普通日本
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