元より文化問題を取扱ふ上に於て平時との相違は大いにあります。つまり国防国家の求める文化統制は平時に於ては是とされる一部の傾向を排撃し、抑制しなければなりません。
 しかし乍ら一方我々は新しい秩序をもたらす指導民族としての重大な役割を自ら負うてゐるのでありまして、所謂非常時局は国家千万年の生命に比べて、これは一つの限られた瞬間であります。この期間に醸成される国民文化の特質がその後に来るべき時代のために禍となるやうなものであつてはなりません。
 我々が子孫に残す文化的遺産が非常時以外に通用しないやうなもの、国民生活を低く貧しくするやうなものであつては由々しいことであります。
 現代日本の文化創造はそれ自体として、他の諸民族の上に長く光被して、真に世界的文化の母胎となると言ふことが理想だと信じます。
 この意味に於て今日の文化政策が、周到な用意を以て考へられ、国民の思想と日常生活の上に明確な指標と実行力を与へうるやう私はそれ/″\の方面に働きかける心算であります。
 国民各自はこの領域に限つて乏しきを忍ぶ必要はありません。伸びるだけ伸び、得られるだけを得ればよいのです。豊かな喜びが、こ
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