の版画家、セルヴイヤの映画俳優、コルシカの女城主!
主人のA・Mは、当日、アパートメントの入口に立つて、一々来訪者に名簿を差だし、そのサインを需《もと》める。狭いサロンはたちまち満員、書斎、寝室、いづれも立すゐの余地なきまでに後から後からつめ込んでくるのであるが、もちろん大部分は立つてゐるのである。脚が疲れると人込みを分けて歩きまはる。その間に知つた顔を探すのである。ぼんやりしてゐるのがゐると、主人のA・Mが、その辺の、またぼんやりしてゐるのに引合はせるのである。ぼんやり同士は、まづ相手が何語を解するかを確めねばならぬ。一方が英語しか話せず、一方が仏語しかわからぬとなると、また、黙つて眼を反らすのである。眼を反らして壁を見ると、これはまた、世界土産展覧会である。一々数へ上るわけにもゆかぬが、デンマークの陶器皿と並んでスペイン風のたて[#「たて」に傍点]がかけてあり、支那の仏像の下にチロルのパイプがぶら下つてゐるといふ工合である。そこには、残念ながら安価な好奇心と、相殺された情調の効果があるのみである。
ところで、ポリテクニシヤンの家庭の茶話会はどうか。意外なことには、この席に、安南
前へ
次へ
全4ページ中2ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
岸田 国士 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング