はどうだ。やあ、欠伸をしたぞ。
女郎花  まだ睡むさうだわ。
芒  あの眼のこすり方……可愛いわね。
桔梗  顔色が悪かない、今朝は……。
女郎花  ここへ来た時よりずつと痩せたわ。
芒  何してるの、両手を差出して……。
女郎花  (けたたましく)あ、どうしたの。
桔梗  倒れたんぢやない。
女郎花  (おろおろ声にて)さうよ、さうよ、きつとさうよ。
[#ここで字下げ終わり]


       第二場

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舞台は前に同じ。
真夜中――星が輝いてゐる。

桔梗と芒と女郎花は、それぞれ草の根を枕に、すやすや眠つてゐる。

慌ただしく風が飛んで来る。芒が先づ驚いて眼を覚す。
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芒  いやね、折角寝ついたところを……。
風  さう、まあ、怒るなよ。
芒  もつと静かに通つたら……。
風  せいぜい静かにしてるんだよ。
芒  どつちから来たの。
風  北から……。
芒  おお寒む。(襟をかき合はす)
風  今、すぐ行くよ。(といつて行きかけるが桔梗の足にけつまづく)
桔梗  いたいツ。だあれ、そこにゐるのは……。
風  やかましいなあ。
女郎花  (これも眼をさまし)また風、今夜は、とても眠れやしないわ。
風  そんなこといはずに眠つてくれよ。(大急ぎで走り去る)
芒  (耳を澄まし)しいツ……聞えない、あの話声……。

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(みんな耳をすます)
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少女の声  (微に)どうして、そんなに毎晩来るの……。何か、あたしに用があるの……。さ、帰つて頂戴……。いやね、そんなに黙つてちや……。あたしは、それや、あんたが好きだつていつたけれど、あたしの部屋なんかへ来ちや困るわ。帰らなけれや、婆やを呼んでよ。さうら、婆やを呼んぢやいやでせう。さ、お帰んなさい。早くさ……。

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(長い沈黙)
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芒  やつぱり、ほんとね。
桔梗  だけど、追ひ返されてるぢやないの。
女郎花  いい気味だ。

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(間)
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芒  (また耳をそばだて)なに、あの音は……。
桔梗  (眼を据ゑ)なに、あの草の中で光るものは……。
女郎花  (悸えて)蛇よ!

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(みんな、身をすくめて、眠つたふりをする。そこへ、ふらふらと、蛇が現れる)
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蛇  (溜息を吐く)おれはやつぱり駄目かなあ。あの肩の上を一度逼へばいいんだ。それが、どうしても、おれには出来ない。もう一度、あすの晩、行つて見よう。もつと、静かに窓をあけなくちや……。

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(姿を消す)
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女郎花  (半身を起し、蛇の去つた方を振り返りながら)なんて気味の悪い奴だらう。独言なんかいつて……。
桔梗  もう行つちまつた……?
女郎花  何か変なこといつてたわね。
桔梗  さうね。
女郎花  こうろぎさん、出鱈目ばつかし……。
芒  どうだつていいぢやないの、そんなこと……。あたし、眠るわよ。
女郎花  さうすると、お嬢さんは、あしたの晩……。
芒  ねえ、ちよいと、もう黙つて頂戴よ。あしたになつたらわかるぢやないの。

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(長い沈黙)
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少女の声  まあ、あんたは、どうしてさう暴れるの。駄目よ。そんなに騒いだつて……。何処へ行かうつていふの……。あら羽根が折れるわよ……。お待ちなさい。そんなに火のそばへ行きたいの……。どら、そこは硝子だから、はひれないのよ。馬鹿ね、あんたは……。

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(長い沈黙)

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さうれ御覧なさい。痛かつたでせう。さ、もうあかりを消してよ、あたし、寝るんだから……。

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(長い沈黙)
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女郎花  お嬢さんが寝るなら、あたしも寝よう(横になる)
桔梗  御覧なさい、芒さんは、もうぐうぐうよ。
桔梗  どうでせう……あんた、足が冷たくはない……? あたしの足、こら……一寸、さわつて御覧なさい。まるで石みたい……。
女郎花  あんたの足は、いつでも冷たいのよ。今夜だけぢやないわ。
桔梗  さうか知ら……。(頭を払ひながら)いつの間に
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