を向けてゐることを御存じありませんか。かういふ人たちは、人として、どれだけ芸術家に劣つてゐるか。彼らの生活は、芸術家の生活に比して、どれだけ貧しく、どれだけ暗いか。彼らは、幾度、自称芸術家に対して、われらの求むるものは他に在りと云つたか。
 芸術は、果して、これらの人と没交渉でなければならないか。これらの人に、芸術は何を教ふべきか。何を学ぶべきか。
 一般公衆を目して牢獄に呻吟するものなりとする芸術家よ、卿らは、果して窓外の光を家とする幸福人類なのか。果たまた、壁の彼方に明るき世界あることを感知して、第一にその壁に孔を穿つ明智と勇気の独専者なのか。
 卿らが、たとへ、その壁に一つの孔を穿ち得たりとせよ、卿らが、穿ち得たりとする孔は、既に彼らの穿ちたる孔の隣にあるかも知れないことを気をつけてほしい。そして、この孔より外を見よ、そは汝らの見知らざる世界なり、などゝ喚くことは慎んでほしい。
 芸術家が、仮に公衆と区別さるべきものとしよう。芸術家が、仮に、さういふ小窓を明け得るものとしよう。
 芸術家は、さもその窓が、ひとりでに明いたやうに、公衆と共に、その窓を指して叫べ――「おゝ、美しき光よ
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