」
ポルシェは、此の時、豊麗なシモンヌ夫人の姿を透して、彼の「女主人公」を見た。
処女戯曲「鷺の群とフィネット」が間もなくコメディイ・フランセエズで演ぜられた。
やがて、シモンヌ夫人は、同僚にして夫たる某氏の許を去つた。そして、自分の見出した才能の中に、新しい第二の生活を托するに至つた。新進劇詩人フランスワ・ポルシェと、当代の名女優シモンヌ夫人との結婚は、一時巴里の劇壇を騒がせた。
サラ・ベルナアルといへば誰も知る近代の名女優、エドモン・ロスタンの「雛鷲」で、すばらしい小ナポレオンを演じたが、エドモンの歿後、その息モオリスを庇護し、天晴れ父の名を恥かしめぬ劇作家に仕立てやうとした。
八十の老女優と二十いくつの若い詩人とは母子以上の親みを見せた。
此のモオリスの詩劇「栄光」に現はれる女神の姿は、西山に沈む夕陽の美しさであつた。
サラ・ベルナアルの葬式は巴里人の眼を見はらせた。例の薔薇の樹の柩の前で、フロツク姿のモオリスが、あたり憚らず、声を上げて泣いてゐたことは、更に巴里人の好奇心をそゝつた。
兎も角も、女優といふものは、おそろしい両刀使ひである。ナポレオン以後仏国
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