女性へ 2
岸田國士

 昔から男勝りといふ言葉がある。今やわが日本の全女性は、一人のこらず男勝りになつてもらはねばならぬ。女性には適しないと思はれてゐる仕事でも、よくその仕事の性質を吟味してみると、それはたゞ習慣的にさう思はれてゐたゞけで、実際は、女性の本能にも適ひ、女性の生理的条件に適せぬといふ理由も成立たぬものがずいぶんある。
 女性の生命は「美」であると云はれるが、この美しさといふものが、時代によつても、また、環境によつても違つてゐることはいろいろの例でこれを示すことができ、平和に慣れた社会にのみ通用する「美」なるものが、いかに戦乱の世にふさはしからぬ調子のものかは、今日、誰の眼にもはつきりわかるのである。
 男勝りといふ言葉は、主として精神的な意味に用ひられてゐるやうだが、容貌姿態に於ても、私たちは、日本の女性が、もつと、凜々しさを尊重し、手弱女などゝいふ呼び方をされることを厭ふやうになつてほしい。女はしほらしくあれといふのは、これは男だけで万事が処理できた時代の要求である。しほらしさは、むろん女の強さともなるものであるが、ひとたび方向を間違ふと、たゞ消極的な男性の玩弄物たる
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