偉大さを感じさせる俳優ではないが、これは、俳優として肉体的資質に、どこか欠陥があるためであらう。しかし、如何なる戯曲中の如何なる人物についても、「かくあるべきである」といふ解釈には驚歎すべき発見と独創が含まれてをり、如何なる文体の如何なる白も、一と度び、彼の口を藉りれば、「かく言はるべきである」といふ、生きた人間の魅力ある言葉となるのである。
このセンスは、彼の主張の根柢をなす強味であり、この才能は、彼の業績をある程度まで世人の脳裡に刻みつけた。しかし、彼は、単なる理論家であることにも甘んぜず、先駆者たる誇りにも安んじることができなかつた。彼は、仏蘭西の演劇を、成し得れば、悉く一手に引受けて、その面貌を一新させたかつたのだ。この欲望は、彼の口からは決して漏らされなかつたし、また、さういふ野心が遂げられるとも思つてゐなかつたらうが、彼の思想的一面に触れたものは、彼が、演劇を以て、直接民族精神の発揚、自国文明の浄化に資せんとしてゐたことは、察し得られるのである。
これがつまり、私の云ふ、ヴィユウ・コロンビエ座の運動が、「演劇の純化」を標榜しながら、「純粋演劇」といふ問題の一歩手前で、先
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