いふものは、その人間の自由主義的な思想の力そのものよりも、一層民衆を奮ひ立たせる力になると思ひます。さういふことも政治家にわかつて欲しいのです。
 経済の方で云ふ自由主義といふ言葉と、一般の哲学などの方面で使はれてゐるその言葉とを一緒にしてよいかどうか。いづれにしろ、今までと全く違つた思想がこゝに考へ得られるかどうか、といふことはよほど吟味が要ります。今までのあらゆる思想のなかで、本当に日本の進歩に役立ち、また、実際国家の発展に役立つ思想の力といふものを考へる場合に、あれは自由主義的な考へ方だとか、それは個人主義的な考へ方だといふことで、一切の思想を片附けてしまつてよいものかどうか。さういふものを排斥したら、一体どんな思想が出来るか、その可能性といふことを考へてみる必要があります。
 明治時代に、日本の過去のよい伝統までなくしかけたといふ点をわれわれはよく吟味しなければなりません。欧化といふと、日本をすつかり捨てゝしまふものゝやうに考へたことすらあるのであります。(昭和十五年十二月)



底本:「岸田國士全集25」岩波書店
   1991(平成3)年8月8日発行
底本の親本:「生活と
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