つてリードして行つて貰ひたい。このはたらきの強弱が文明社会の高度を律するものではないかと考へられる。
 現在のやうな文化の危機を生んだ原因には近いものと遠いものと二つある。近因については現在盛んに述べられてゐる通りであるが、遠因は要するに日本の社会制度の欠陥にあるといふことができる。議会制度が腐敗し官僚は独善主義に陥り、知識層は次第に大衆から遊離して行つた、かういふ状態から必然的に生れた一種の社会の風潮が、遂に文化を危機に陥らしめるものを生んだのであり、そこにまた新たな民衆の不幸が始まつたのだと思ふ。
 これはまさに男性の責任である。立身出世主義を目標とした男性のカルチユアによるものである。これに対して敢然と危機にさらされてゐる日本の文化を擁護することができるのは、男性の中では、わづかに知識層の中の良心的な一部の人々に過ぎないので、どうしても女性の協力と支持を俟たねばならない。
 直接に戦つたり、政治経済の方面に関はりを持つたりすることのない女性も、今度の事変では、家族や近しい人々の中から多くの出征者や戦死者を出し、直接間接に得難い体験を得たことゝ思ふ。この生々しい経験を得た女性たちは
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