。私は何も以上の職業を軽蔑するわけではなく、ただ、これらの職業が作りだす類型的醜悪さを厭ふのである。
電車のなかなどで、ひとわたり見廻すと、これが役者ならと思ふやうな、印象深い「人間的魅力」を備へた青年男女、乃至は、小父さん小母さんが、決して少くないのである。職業や身分は問ふところでない。彼等は概して類型に嵌つてゐないだけである。必ずしも美男美女ではない。それでゐて、見事に典型の美を備へてゐる。即ち、個性がタイプを作り、そのタイプが現代の雰囲気と調和し、「生活の深い味はひ」を伝へてゐるのである。
現代の俳優の中にも、新旧を通じ、ある種の「人間的魅力」を備へた人々がゐることはゐるが、なにしろ、その「味ひ」たるや、現代人の舌に合はぬものが多い。伝統的な深みはあつても、社会的の幅が足りない。従つて、今日の舞台が要求する感覚と神経は、それらの人々に求める方が無理である。
現在、如何なる「職業」に従事するものでも、凡そ俳優と称する「職業」にあるものを除いては、もつと「現代劇の人物」たるに適した風貌を有し、現代劇の「生活」に近い生活をなし、現代劇の呼吸を呼吸しつつあるやうに思はれる。即ち、将来の演劇は、俳優型俳優を排除するところから新生命を齎すであらうともいへるのである。(一九三四・一二)
底本:「岸田國士全集22」岩波書店
1990(平成2)年10月8日発行
底本の親本:「現代演劇論」白水社
1936(昭和11)年11月20日発行
初出:「都新聞」
1934(昭和9)年2月25日、3月1、2日
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5−86)を、大振りにつくっています。
入力:tatsuki
校正:門田裕志
2009年9月5日作成
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