方へ突き出して、「わたしのからだは、大事なからだです。どうして、どうして……」と、その剣を、大きな楡の木の幹に突き立てる身構えで、「わたしの妻、わたしの子供たち、それから、わたしの友だち……いや、いや、まだ、これで、うつかり死ねませんよ」と叫んだ。
ミス・Wのかすれた笑ひ声……。仏蘭西には売つてないやうなパラソルの先で、コンシャルドラマのステッキをはたと叩いて、「自分が人のために、大事な人間だと思つてゐる人を、わたし軽蔑します」とやつたものである。この時、C君の骨張つた手から危ふく滑り落ちようとしたステッキを、私は今でも、なほ自分の手のうちに感じている。
底本:「日本の名随筆91 時」作品社
1990(平成2)年5月25日第1刷発行
底本の親本:「岸田國士全集 第九巻」新潮社
1955(昭和30)年8月発行
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5−86)を、大振りにつくっています。
入力:大野 晋
校正:多羅尾伴内
2004年12月11日作成
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