さえて、指のごく近くの所で噛み切り、そのまま勢よく噛むのである。すると、可なり豊富な汁が出て来て口中を一杯にする。そのうまさといつたら、とても風雅を解せぬ俗人どもには想像がつくまい。
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 もう一つ、最後にこんな一節があるのを紹介しよう。
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一八一五年十一月の条約(註=ナポレオン失脚後、フランスが英、独、露、墺、スエーデンなどと結んだ第二パリ講和条約)はフランスに対して、連合国に七億七千万フランの償金を支払えという条件を押しつけた。その上、連合国個別の要求がこれに加わり、かつ、各国の君主および将軍たちが、てんでに勝手な理由をつけて補償金を出せと強請し、結局、国としての賠償総額は十五億を上廻つた。(註=今の金にすれば、数千億というところであろう)
このような巨額の金を、毎日なしくずしに現金で支払わねばならぬということは、やがてフランスの財政を破綻にみちびくばかりでなく、国民その日その日の生活も極めて困難になるだろうというので、国をあげて心配した。
ところが、案に相違して、すべては、取越苦労であつた。財政家が眼をみはつているうちに、支払いはいとも
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