手に」食べることだと教えられ、誰でも、健康な感覚さえもつていれば、明日から「うまい物」が味えるという希望と自信とを与えられることである。
さて、彼は、哲学者風にこういう――
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君はどんなものを食べているかを言つてみたまえ。君がどんなひとであるかを私は言いあてよう、と。
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ところで、私は、彼の口真似をして、こういうことができそうだ。
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――君の郷里の名物を私に食べさせてみたまえ。私は、君たちがどんなひとであるかを言いあてよう。
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彼は哲学者であつたばかりでなく、一世を風靡した名コックであるが、この書物のなかにこんな一節がある。
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――チーズのないデザートは片眼のない美女の如きものである。
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するとわれわれは、東京でも大阪でも、ちやんと両眼をそなえた美人というものに出会つたことがないわけだ。
彼の料理法の一例に――
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よく肥えた小禽《ことり》をクチバシのところでつまんで少々塩にまぶし、砂嚢を抜き、上手に口の中に入れ、歯でお
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