が何を求めつゝあるかといふ点を観察した。
丁度私の着いた翌日、やゝ大規模な討伐が行はれ、小川隊長の計らひで、私も、本部の一員に加はつた。当面の敵は、楊州北東数キロの陣地に拠る正規軍で、兵力はもちろんわれに数倍するものであつた。この戦闘の情況はこゝでは略すが、楊州地域を窺ふ敵は、この外、西北に陳文の率ゐる雑軍、西に例の大刀会匪なる私兵があつて、これらを合すればその兵力は優に数万と称せられてゐる。
楊州の地区本部を中心としてそれぞれ更に小守備隊が前方に出てゐる。若い小隊長の率ゐる数十名の一隊が、敵の迫撃砲を浴びながら、一寒村に起臥してゐる有様を想像してみるといゝ。住民の向背は、神のみぞ知るである。毎日のやうに強行偵察が行はれる。機を見て敵の背後を衝く冒険が演ぜられる。密偵が潜入する。本部との連絡が必要である。眠る暇がよくあると思ふ。
住民は何時の間にか日本軍を信じ、これに頼つてゐるのである。たゞ、恐れるのは、何時か日本軍が引上げて行き、再び此処へ支那軍が来ることである。
戦線はかくの如く無限に広いことを国民はとくと知つてゐなければならぬ。
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