、その人を信じ、当面の戦線を分担しつゝ、共同の活動に入るべき時期ではなからうかと、私はひそかに考へてゐる。
 その意味で、私は、文化的に「日本」だけが解決を急ぐ特殊な問題が沢山あると思ふ。しかも、そのなかには、文学者の手によつて解決の方向を与へらるべきものも少くないのである。さういふ問題を放棄して、如何に「人類文化のため」に戦つても、それは片手落でなければ、机上の空論である。
「文化はあと、思想が先」といふ説もあるが、それはどつちでもいい。理想をいへば、文学者は思想的な立場を異にするものが、なほかつ文化的には相互の立場を保護し合ふやうにできてゐるとさへ私は思つてゐる。さういふ面での、積極的な提携が、今日ほど有効で、必要な時機はないのだといふことを、みんなが早く気づいて欲しい。論争を封じてとまではいはぬ。論争の傍らでよろしい。戯談をいつてゐるやうに聞えるかも知れぬが私は今、戯談などをいへる気持ではない。
 早い話が、近頃の新聞か雑誌に、「文芸家協会の会館を建てるといふ計画はどうなつたか」といくぶん弥次り気味に書いてあるのを読んだが、第一、文芸家協会が何をしてゐるのかさつぱりわからぬといふ
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