り、口がきけなくなりました。
しかるに、それから後、またある人からかういふ話を聞かされました。あの祝典に参列した一外国人が、そばにゐた親しい友人に向つて訊ねたさうであります――「私はこんな立派な儀式を世界のどこでも見たことがない。ところで、こんな立派なことができる日本人が、なぜ平生はあんな風なことしかできないのだらう。実に不思議だ」と、かうであります。
「あんな風なこと」とはいつたい何を指すのか、私は突つこんで訊きはしませんでしたけれども、およそ見当はつきました。残念ながら、われわれの日常生活、即ち、われわれの衣食住、お互のたしなみ、われわれの芝居と映画、われわれの停車場、公園、これはなんと申しても、われわれの輝かしい歴史と、その見かけがあまり距たりすぎてをります。
それについて、ゲーテだつたと思ひますが、次のやうな言葉があります――「何事かを成さんとすれば、まづ何者かでなければならぬ」
ところでわれわれ日本人は、そもそも何者でありませうか?
健全な文化、壮大な文化は、既にわれわれの精神のうちに宿つてゐるのでありますから、それは時を得れば忽ちその完璧な姿を天下に示すことができる
前へ
次へ
全12ページ中3ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
岸田 国士 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング