る。俳優各自は、台詞を覚え込むばかりでなく、前日の稽古によつて到達したものへ、その翌日は、何物かを附加すべく稽古場へ出かけて行く覚悟が必要である。その附加すべきものは、演出者から与へられるものを期待する以外に、自ら何等かの新しい発見を用意して行かなくてはならぬ。これが稽古の根本要件である。即興とまぐれ当りは禁物である。
 この新しい発見は、如何にして得られるかといふと、先づ第一に、「テキストの理解」からであることは云ふまでもないが、その理解は、抑も教養と経験によつて広狭深浅の差を生ずるのである。が、演出家その他の協力指導が加はつて、ほぼ「完全な理解」に到達したら、その次は、その「人物」の立体的構成に必要な想像と観察を働かさなくてはならぬ。これがまた、俳優の教養と経験に俟つところが大であり、しかも、稽古中、最も多くの時間と努力を費さなければならぬ点である。さて、最後に、「自分の頭に描き得た」人物を、如何に表現するかといふ段になつて、はじめて、演出家の批判を必要とするのであるが、俳優の「頭に描かれた」人物といふものが、既に、その舞台全体のトオンを先づ決定することを忘れてはならぬ。しかも、未
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