個々の俳優に応じて、指導的乃至協議的演出の方法を並用すること)
そこで、本読みによつて稽古を開く。
配役を発表してから、一週間、台本たる戯曲の全般的研究。役々に関する必要なる解説及び各人物構成上の注意(モデル選択の方針又は職業的習癖の観察事項等を含む)――この期間は、毎日読み合せを一回づつ行ふ。
第二週、第三週。主として、「白」の言ひ方。(このプログラムは演出家の目指す標準如何によつて決せられる。)
第四週。立稽古開始。主として、動きの研究。一日一幕の割合。
第五週。白、表情、科、動きの全体的統一。
第六週。白、表情、科、動きの部分的工夫及び練磨。この間、演出家は主として、舞台のリズムを正確に測定し、演技のトオンを最高度に引上げる努力をする。
第七週。部分的仕上げ――特に重要な場面、困難な場面の仕上げ。未熟な俳優の特別指導。音楽及音響効果との関係。
第八週。メエキヤップ、コスチュウム、小道具しらべを兼ねて、本舞台を使用する稽古。
第八週の終り、又は第九週目に舞台稽古。少くとも三回。
稽古の時間は、一日三―五時間。但し、稽古の時間だけ「稽古」するのでないことは勿論である。俳優各自は、台詞を覚え込むばかりでなく、前日の稽古によつて到達したものへ、その翌日は、何物かを附加すべく稽古場へ出かけて行く覚悟が必要である。その附加すべきものは、演出者から与へられるものを期待する以外に、自ら何等かの新しい発見を用意して行かなくてはならぬ。これが稽古の根本要件である。即興とまぐれ当りは禁物である。
この新しい発見は、如何にして得られるかといふと、先づ第一に、「テキストの理解」からであることは云ふまでもないが、その理解は、抑も教養と経験によつて広狭深浅の差を生ずるのである。が、演出家その他の協力指導が加はつて、ほぼ「完全な理解」に到達したら、その次は、その「人物」の立体的構成に必要な想像と観察を働かさなくてはならぬ。これがまた、俳優の教養と経験に俟つところが大であり、しかも、稽古中、最も多くの時間と努力を費さなければならぬ点である。さて、最後に、「自分の頭に描き得た」人物を、如何に表現するかといふ段になつて、はじめて、演出家の批判を必要とするのであるが、俳優の「頭に描かれた」人物といふものが、既に、その舞台全体のトオンを先づ決定することを忘れてはならぬ。しかも、未
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