しない。

 嘗て歌を作つたことがある。
「この男、月いくらぐらゐ取るならんと、……博士の講義、聴きしこともあり」
 歌は駄目だと思つた。

 芝居を書かうと思ひ立つてから芝居を見に行きだした。
 芝居が好きだとも云ひだした。

「最新式」に限ると云へば鉄砲などもさうのやうだ。
「そんなものはいらん」
「いるかいらないかを聞いてるんではない」

 芝居を書くと云ふことのうちには、芝居を見る楽しみも大方含まれてゐる。

「貴様、日本のことは書けんのか」と、友の一人は憤慨して云ふ。
「今は、書けん」
「うそつけ」と、もう一人の友が云ふ「日本のことぢやないか、貴様が書いてるのは」
「さうだらう」

 作者に霊感を与へるやうな俳優はないか。
 ――俳優を活かすやうな作者はないか。
 先づ、俳優が出なければ……。
 ――いゝや、作者が先だ。
 黙れ、黙れ。もつと上手に、二人とも、お辞儀をしろ。

「読む戯曲」は、不幸な劇作家の手すさびに過ぎない。
 不幸な劇作家とは俳優に見放された劇作家である。
 今日の「読む戯曲」が、明日の優れた「上演脚本」でないとは限らない。
 一例。「戯れに恋はすまじ」

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