から改行天付き、折り返して1字下げ]
微々  ぢや、皆さん、それでよくわかりました。追つて、金が必要な時、こちらからお願ひに上ります。
[#ここから1字下げ]
○銀座の夜。
[#ここから5字下げ]
大道肖像画家――それは中根六遍である。やつと一枚描き終つて、その絵を客に渡したところ。
相当の人だかりにも拘はらず、次ぎの注文者が現はれない。(合唱)
やがて、一人の男が前に進み出て、「ひとつ、やつてくれ」と云ふ。これが、三堂微々。
六遍は、真面目くさり、絵筆を嘗めて微々の顔を見つめてゐる。人々は、このからくりを知る筈がなく、変な奴が飛び出したといふやうに、薄笑ひを浮べて、ぢろ/\微々の顔をのぞき込む。
絵筆が紙の上を走る。瞬くうちに出来上る。そこへ、通りかゝつたのが、天城更子とその取巻きの男女数人である。
更子は、何気なく、立ち止る。
「おや、あの絵かきは、何処かで見たな」と思ふ。
次に、モデルになつてゐる男の顔をのぞき込む。「なんだ、あいつぢやないか」といふ表情。
二人の男を見比べてゐる間に、万事を呑み込んだ。微々は絵を受け取り、金を払ふ。
[#ここで字下げ終わり]
[#ここから改行 
前へ 
次へ 
全49ページ中29ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
岸田 国士 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング