欲しいんです。徳義と法律の名に於て、それを、あなたに要求します。
六遍  私に?
嬉野  作者たるあなたの自由意志に、われわれは、まだ信頼してもいゝのです。あなたが同意をされなければ、己むを得ない。最後の手段に訴へるばかりです。
六遍  では、今夜までお待ち下さい。仲間と協議の上、多分、思召に叶ふやうに取計らへることゝ思ひます。
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更子は、六遍を尻眼にかけて、悠然とその場を去る。横川と嬉野がその後に続く。

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〇三堂微々の家。
[#ここで字下げ終わり]

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武部  そこで、この間題に対するあなたの御感想を伺ひたいんですが……。
微々  感想ですか。感想は、もうありませんな。その話を聞くまでは、いろいろ、これでも感想を繞らしてゐたんですが、蔓は、悉く破れました。もう一度、云つて下さい。賠償金は、いくらでしたつけな。
武部  一万円。
微々  一万円……。(考へ込む)
武部  一万円が一文も欠けてはといふことでした。
微々  まからんのですな。(彼は、空ろな眼であたりを見廻す――金目の物でも物色するやう
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