宝石商の前に立ち止る。店の中にはひる。
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微々  (件のダイヤを取り出し、番頭に)これは、いくらぐらゐのもんかね。
番頭  (受け取つて、仔細に点検した上、目方を計り)さやうですな、只今で、七百円ぐらゐもいたしませうか。
微々  これとよく似た格好で、うんと安いやつはないかね。勿論、硝子でもなんでもいゝ。
番頭  手前共にございますんでは、硝子ではございませんが、人造で、六七円からの品でございますよ。ちよつとお目にかけませう。
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微々は、出された多くの石の中から、素人ならちよつと瞞されさうな人造ダイヤを取り上げ、元のやつと比べてみる。
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番頭  さうやつて御覧になりますと、比較になりません。
微々  いや、これで結構。いくら?
番頭  その方は、七円でよろしうございます。
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微々は、金を弘つて外へ出る。何がうれしいのか、にこ/\しながら、口笛など吹く。

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○バア・クレオパトラ。

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微々は、女給の案内で、その一隅に陣取る。ビールを飲みながら、ポケツトの蟇口から、さつきのダイヤを取り出し、女給共に見せる。
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微々  どつちが高いと思ふ?
女給A  これ、本物か知ら?
女給B  怪しいわね。
微々  (別の一つを取り出し)ぢや、これは……?
女給A  どら、どら……この方が光るわね。
女給B  硝子を切つてみればわかるわ。
女給C  かういふのが、却つて瞞されるのよ。わたし、どつちかつて云へば、そつちの方が高いと思ふわ。
微々  (起ち上り)電話……。
女給A  (先に立ち)こちら……。

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○電話口。
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微々  (電話帳を繰り)えゝと、トオケウトオキイ株式会社撮影所と……。あつた。(番号を廻し)あ、もし、もし、トオケウトオキイの撮影所ですね。天城更子にちよつと出て貰ひたいんですがね……えゝ、アマギ……サラコ……さうです。僕は兄です。……はい……例の事件で、至急話があるつて云つて下さ
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