の立入つたことが伺ひたいんです。世間では、もう、一般にさう信じてますが、今度のやうな事件を機会に、お二人の間が、表面的に、どう進展するかといふ興味を、われわれは持つてるんです。
更子 ぢや、そんな興味は、おもちにならない方がお悧巧ですわ。実は、あたしの立場としても、世間のさういふ誤解を解いておく方が便利なんですの。少し早すぎるかも知れませんけど、序だから、申上げますわ。あたし、近いうちに、恋愛をするかも知れません。
記者 (鉛筆を嘗め)はあ、相手の方は?
更子 名前はまだ、公表できません。
記者 何をしてる人ですか。
更子 さあ、それも、当分……。
記者 それぢやあ、しかし、記事になりませんなあ。
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三
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〇漫画展覧会場。
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会期が終り、今、出品の絵を片づけてゐるところ。
中根六遍と加治わたるの絵は大部分売れ残り、三堂微々のみは僅かに、問題の絵一枚を除いて悉く売約済。
微々は、問題の絵から、「非売品」の札をはがし、額縁から外して傷を埋めようとしてゐる。
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六遍 自分の絵は、これで、手離すとなると惜しいもんでね。やつぱり、朝晩、眺めてゐたいよ。
わたる 幸ひ、気に入つた絵だけは、みんな売れずにすんだから有難い。
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この時、微々は、傷ついた絵をそつとつまみ上げる。すると、額縁の中に、小さな光つたものを発見する。
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微々 やツ、これは不思議……。
六遍 なんだ。
微々 (大粒のダイヤを拾ひ上げ)これを見ろ。
わたる 彼女が落したつてやつだ。何処にあつた?
微々 こん中だ。(額縁の隅を指す)
六遍 こん中とは云へ、貴公一人のもんではないぞ。
微々 なぜだ?
わたる こゝは、われわれの展覧会場だ。
六遍 千円は、おれたち三人が取るんだ。
微々 見つけたのはおれ一人だ。
わたる そばにゐたのは、おれたちだ。
六遍 騒ぐな、騒ぐな。話はわかつとる。早くしろ、おい、微々!
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○銀座の鋪道。
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三堂微々が、額の包みを小脇にかゝへ、ぶら/\歩いてゐる。ふと、
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