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監督が、いら/\しながら、天城更子を待つてゐる。
手もち無沙汰な俳優たち。時間潰しの余話。
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女優A あゝあ、誰かあたしを漫画に描いてくれないかなあ。
男優B 漫画の方が美人だつたりしてね。
女優C いくら変に描かれても、それほど似てなきやいゝのよ。
女優A ところで、更子さんのと来ちや、似すぎるほど似てたわ。人と違ふとこだけ描いたみたいね。
女優C それより、第一、感じが出てるつたらないわ。
女優D しかし、訴訟は、思ひつきね。向うもよろこんでるでせう。
女優A ぐるだつて話もあるわ。
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○支配人室。
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高見が電話をかけてゐるところへ、天城更子が、扉をノツクする。
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高見 はい。(更子の姿を見て)よう、お早う。まあ、そこへ掛けなさい。えらいことをやつたのう。
更子 でも、あんまり口惜しいんですもの。
高見 ふん、それにしてもさ。大成功ぢやないか。
更子 なにがですの。
高見 それそれ、その意気だから、世間が乗つて来る。照れちやいかん。悪どくてもいかん。さりげなく、無邪気に、そして実は、芝居気たつぷりにやらんといかん。ダイヤモンドの一件なんか、よく考へついたね。誰か黒幕がゐるんぢやないかい。まあまあ、それやどうでもいゝ。俸給も、いくらか増してあげたいと思ふんだが、ひとつ、結果を十分見届けてからにしよう。
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○酔ひしれた三人の漫画家は、互に肩を組んで、郊外の宵の街をほつき歩いてゐる。
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(合唱)
漫画なんぞ、売れんでもえゝ
展覧会に、人がはいれやえゝ
絵なんぞ、いくらでも呉れてやる
酒ならいくらでも持つて来い。
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○三堂微々は、玄関の上り口に、正体なく寝込んでゐる。
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訪問客。
微々は、欠伸をしながら起き上る。
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客 三堂先生のお宅はこちらですか。
微々 三堂先生のお宅はと……えゝ、たしかこゝです。ちよつと待つて下さい。(上へあがり、部屋の様子を検べて)はあ、たしかにこゝです
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