て上る。
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微々 やあ、御苦労でした。さあ、どうぞお楽に……。
武部 (あつけに取られて)三堂さんは……?
微々 僕です。
武部 さうですか。それや、失礼しました。
微々 いや、こちらこそ……。早速ですが、その話といふのを承りませう。
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○展覧会場。
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天城更子が横井と嬉野とを従へてはひつて来る。切符を買つてすぐに問題の絵を探す。
受附では、六遍とわたるとが顔を見合せて囁く。
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六遍 来たぜ、実物が……
わたる 買ふな、きつと。
六遍 しまつた、定価札を書き替へとくんだつた。
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○問題の絵の前。
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更子 なに、色まで附けたるぢやないの。
横川 三円は、馬鹿に安いね。
嬉野 安いですよ。
更子 絵だけなら、高いくらゐだわ。
嬉野 モデルがあなたでなければですね。御尤もです。しかし、なかなか、目につきますな。
更子 それが困るのよ。
横川 かうしてみると、女の漫画つてものは、少いもんだね。あれや、誰だ。吉岡弥生女史か。それから……向うのは……。
嬉野 三宅やす子です。
更子 どうしたら、あたしがこんな風に見えるんでせう。考へちやふわ、全く。
横川 その苦心を見せるつもりなんだらう。
更子 さうだわ、なんでもないわ。この絵を買つちやへば、文句はないんだわ。
嬉野 すると、訴訟の方は……。
更子 それは別よ。今迄の分は取返しがつかないぢやないの。
嬉野 それはさうです。
更子 だから、それはそれで弁償させるとして、これから、この絵を人に見せなけやいゝのよ。ねえ、(横川に)あたしからぢや変だから、あなた、買つて下さらない。
横川 買つても、すぐは持つて帰るわけに行くまい。展覧会がすむまでかうしておくのが普通のやうだから……。
更子 そこをなんとか談判して下さらなくつちや。少しは高く買つてもいゝとかなんとか……。
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六遍が、それとなく様子を見に来る。
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六遍
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