屋や雑誌社に売込むと云ふことは先づ絶対に無いと云つていい。この点、日本などゝ反対のやうであるが、今、遽かにその可否を断ずることは出来ない。
 成るほど、仏蘭西(英独あたりでも同様だと思ふが)のやうな国では、劇作家が舞台以外で自作を公表する方法が無い。従つて、上演しさへすればその価値を認められるやうな作品でも、比較的長く人目に触れないでゐることが多いかも知れない。せめて印刷されて、読まれる機会でもあれば、さう云ふ人達に取つては幸せであらう。然し、一方で、さう云ふ国の劇場主は、競つて優れた新作品を探し出さうとしてゐる。勿論、評価の規準はまちまちに違ひない。たゞ、「佳いものなら、上演しよう」と待ち構えてゐる劇場が相当にある。大家のもの、人気作者のものでなければやらないと云ふやうな劇場も可なりあるにはある。が、それだけまた、権威ある批評家、劇壇の耆宿、理解ある舞台監督等が、常に、若い無名作家の原稿を読んで、佳いものがあれば相当の劇場に推薦することを努めてゐる。アントワアヌの如きは、今日に至るまで、机上に堆高く積まれた原稿を、根気よく片端から読んで行き、百のうちに一つでも掘り出し物があれば、「自
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