うぞ」「今、大将は忙しいんだがなあ」「こつちは別に急ぎませんから」門番はにやりと笑ふのである。四十日経つと、返事を聞きに行くのである。勿論、原稿を返して貰ひに行くのと同じことである。「まだ見てなさうですが、もつとお預りして置きますか、それとも持つてお帰りになりますか」――持つて帰りますと云ふ元気ありや。「わが原稿は眠れり」――無名作家の嘆声である。脚本の原稿は劇場に持ち込むときまつてゐる。雑誌社なぞでは受けつけてくれない。(ミュッセは大方その戯曲を舞台に掛けないつもりで雑誌に発表した)
「あゝ、××さんですか、お作を拝見しました。結構だと思ひますが、あの第三幕ですがね」劇場主の注文が出る。
然し、こゝまで漕ぎつければ、もう占めたものである。占めたと云ふ意味は、つまり、為事にありついたわけである。
そこで、劇場主との間に契約が結ばれる。上演は受附順と云ふきまりになつてゐるが、なかなかその通りに行かない。延ばされても苦情は云へないやうになつてゐる。損害賠償を要求するにも理由が成立しないからである。
此辺の交渉は、どうしても作者単独では駄目である。まして、上演はするが金は出せないと云ふ
前へ
次へ
全12ページ中2ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
岸田 国士 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング