ない。僕は、第一に、この仕事から、偶然ではあるが、一人の、未だ世に知られざる才能を発見し得たことを悦ぶものである。「街」の同人、坪田勝氏こそは、われわれの時代が見落してはならない劇作家であらう。
然しながら、僕の望んでゐたものが、坪田氏によつていくらか充たされはしたものゝ、「トロイの木馬」一篇が、僕の求めてゐた戯曲そのものであるとはいひ切れない。僕の勝手な注文が許してもらへるなら、坪田勝氏の「言葉」をもつて、川端康成氏の「第四短篇集」(文芸春秋)が戯曲化された時、僕は、無条件に頭を下る。
なほ、これは命ぜられた仕事の範囲を超えるやうだが、文芸時代で稲垣足穂氏の「ちよいちよい日記」といふ小説を読んで感心した。感心したゞけでなく、一寸した発見をさへしたのである。すなはち、稲垣氏は、立派に戯曲の書けるんだといふことを。あの会話が生みだすユニツクな劇的シインを見給へ。一疑問符のかもしだす幻象《イメージ》の深さを見給へ。しかしこれは、一寸した発見に過ぎない。なぜなら、これは稲垣氏に何ものをも加へることにならないであらうから。
連日、傍若無人な言辞をろうして、他人の作品を褒めたりけなしたりし
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